入笠高原の小さな山小屋、ヒュッテ入笠の山口です。

いきなりですが、この冬のシーズンより「ビーフシチュー」の販売をやめることにしました。冬のランチではビーフシチューの販売はありません。悩んだ末のというより、この機会を探していたという方が正しいかもしれません。なぜこのような決断に至ったかをお話ししたいと思います。

【ビーフシチューを始めた理由】

まず、ビーフシチュー誕生秘話?からお話ししましょう。私が旧マナスル山荘本館の営業を手掛けるようになったのは2014年4月。創業者から経営を引き継いだわけですが、その当時は登山者も宿泊者も少なく連休などのハイシーズン以外は閑散としている山でした。経営を軌道に乗せるためにまず手掛けたのは宿泊者を増やすこと。そこでランチメニューに目玉を作り、ランチ利用者を宿泊に誘導することでした。

その目玉メニューが「ビーフシチュー」です。なぜビーフシチューなのかというと

  • 山小屋らしいメニューであること
  • 他の山小屋と差別化できること
  • 厨房施設が古く、ガスレンジで仕込めるメニューであること
  • ワンオペのためオーダーしてからの手間がかからないこと
  • それなりの単価であること
  • 料理がおいしいイメージを持たれること

山小屋らしい料理は何かと考えたときに、肉を使った体の温まる料理としてビーフシチューは真っ先に浮かびました。調理の仕事では洋食店にかかわることが多く、中でも煮込み料理は好きな調理法でした。今でもビーフシチューを提供している山小屋はいくつかありますが、どこよりも美味しいビーフシチューを作る自信もありました。引き継いだマナスル山荘本館は施設が古く、厨房もガスレンジが数台置いてあるだけという規模でしたから大きな鍋一つで完結することができるビーフシチュー、さらに平日の暇なときに仕込んでおけば、週末の繁忙日には最後の過熱だけで提供できるため少ないオペレーションが可能なメニューであることも重要なポイントです。ちょうどそのころ仕入先から「松本で生産される牛のほほ肉が余っている」という情報を聞きつけ、この肉を使うことに決めました。長い時間煮込まないと食べられないほほ肉は手間がかかるため飲食店から敬遠されていたようです。こちらには平日に時間はたっぷりありましたから。牛ほほ肉は一頭から取れる量も少なく、希少部位です。この頬肉を一人前200g使用し、ボリュームのあるメニューを作りました。

開業当初はなかなかビーフシチューの販売数も思うように伸びませんでしたが、SNSでの拡散をきっかけにランチ利用者も増え、おかげさまでマナスル山荘本館を代表するメニューとなり、料理の美味しい山小屋と認知されるようになりました。

【ビーフシチューをやめる理由】

経営を引き継ぎ10年、屋号もヒュッテ入笠に変わり、宿泊施設としてのスタイルを変化させていく時期だと考えておりました。料金やサービスの見直し、メニューの見直し、従業員の労働条件や環境も見直さなければいけません。

ビーフシチューは人気メニューになりましたが、このメニューを求める登山者の嗜好が私の考えているものと乖離し始めたことを数年前から感じていました。「入笠山はビーフシチューを食べればそれでOK」というハイカーが増えて、売り切れ時のクレーム、どうしても食べたいという方の電話やメールなど対応に困るようになってきたのです。一日中電話が鳴るような状態です。数時間営業準備のできないような状態を想像してください。

また、県内の飲食店で「マナスルで使っているほほ肉を使いたい」と引き合いも増えて、私の施設で仕入れられる牛ほほ肉もだんだん減ってきました。ここ数年は近隣で生産される牛ほほ肉を仕入れたりするようになっていました。これらは嬉しいことでもあるのですが、違和感も同時に感じていました。

仕入れ業者もコロナで廃業するなどして、現在使用していた調味料類が手に入らなくなったことも理由の一つでもあります。

一番の目玉商品をやめるわけですから覚悟がいります。簡単だとは思っていません。ただ、このタイミングがいまなのだと思うようになってきました。マナスルからヒュッテ入笠へメニューやレシピも改編します。

【ビーフシチューに変わるメニュー】

ビーフシチューをやめるだけでは売り上げや施設の魅力が目減りするのは目に見えています。

そこで新たなメニューを投入です。

牛バラ肉の赤ワイン煮 ¥2,500

ビーフシチューから牛赤ワイン煮にグレードアップしてご提供いたします。たっぷりの赤ワインで煮込む牛肉はホロホロでコソースの国はいまのビーフシチュー以上!実は赤ワイン煮の方が仕込みや食器鍋洗いでの排水の処理も山に負荷が少ないことも分かりました。

写真は秋に何度か試作してご宿泊の方にお召し上がりいただいたもの。評判は上々で、これから一人前のボリュームや付け合わせの野菜をどうするか最終段階の詰めに入ります。

他のランチメニューは継続するものが多いですが、調味料の見直しで味付けが変わるものも増えそうです(もちろん今までより美味しくなります!)

12月16日(土)よりウィンターシーズンをスタートします。ランチ営業もこの日から開始します。この週末はこれまでのビーフシチューを販売予定ですが、仕入れた牛頬肉が終わり次第『牛バラ肉の赤ワイン煮』にメニューを差し替えます。つまり、マナスルのビーフシチューが食べられる最後のチャンス!どうぞマナスルを懐かしんでお召し上がりにお越しください。

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