入笠高原の小さな山小屋、ヒュッテ入笠の山口です。

山はほんの些細なことが死に至るレジャー。いや、山に限らず海水浴や行楽観光でも同じことですが。

10月末にネットに流れた転落死のニュース。昨冬のアルバイトが山で人生にピリオドを打ちました。ピリオドを打つといっても本人は全くその気がなかったはずで、「えっ」という驚きとも焦りともつかない思考がぐるぐる回った最後だったのだろうと推測するしかできない。グリーンシーズンが終わってすぐに現場となった大岩壁を眺めに行ったのだが、私も登ったその岩壁は年をとったせいか私などが近づくことを許さないような迫力で聳えていて、恐れを感じるくらいであった。

彼は仕事が終わるとヒュッテの談話室で古い登攀記録や岩場のルートの掲載された本を山積みにし、これから挑む山のことを夜更けまで調べるのが毎晩の日課だった。日課というより楽しみなのだろう。まだ見ぬルートに思いを寄せ、自分がその壁に取りつき、攀じる姿を想像し、自分では困難なピッチを見つけてはため息をつき、別のルートを探す。

今の自分の登攀レベルを理解しつつも、それより少しレベルの高いルートを探しては次の山行を想像する。そんな彼の姿は毎週のように山に向き合い歩いた私の若いころを思い出させました。仕事終わりには山の話で飲む酒が本当に楽しかった。

ただ一つ違うのは、私は生きていて彼は死んでしまったこと。

でもその違いはほんの些細なことなのだろう。山に向かう若さと行動力と前向きな思考を持つ彼を、羨ましくも妬ましくも思ったりした。とても魅力のある若者だった。珍しくアルバイトにしては仕事中のスナップ写真が残っていて、どれも楽しそうに笑っている。

秋に入笠山にも訪ねてくる予定だったことをご家族からお聞きした。たぶん、明星山を登ってその足で入笠山に登ってくる予定ではなかったのかと想像している。

長いこと山小屋や遭難救助隊員として山での死にかかわってきたが、やはり山では死んではならないと思った。

残念ではあるが…追悼。

Follow me!