入笠高原の小さな山小屋、ヒュッテ入笠の山口です。
ヒュッテ入笠では、2014年のマナスル山荘本館の営業開始時より「ビーフシチュー」を提供してきました。
山小屋で2日間かけて仕込む煮込み料理は、ありがたいことに多くのお客様に愛していただき、この山小屋の代名詞のような存在になっていました。
だからこそ、この名前を使わなくなる決断は、簡単なものではありませんでした。
私にとって「ビーフシチュー」とは、
長野県産の牛ほほ肉を使い、時間をかけて仕上げる料理そのものでした。
固くて扱いにくい部位だからこそ、手間を惜しまない。
その工程も含めて、ビーフシチューだと考えてきました。

2日間かけて仕込む工程の一部
しかし、原材料の事情により牛ほほ肉を安定して使えなくなったとき、
私はその名前を使い続けることができませんでした。
レシピが似ていても、
味に自信があっても、
「中身が変わったのに同じ名前で出す」ことはできなかったのです。
それは、名前よりも、
これまで食べてくださったお客様への誠実さを選びたかったからです。
私たちは、
「ビーフシチュー」という名前が
お客様の記憶や期待と強く結びついていることを知っています。
だからこそ、
その中身に責任が持てない状態で
同じ名前を使い続けることはできませんでした。
名前は、便利なラベルではなく、
信頼そのものだと考えているからです。
現在ご提供している牛タンシチューは、
創業以来のビーフシチューと同じ考え方で仕込んでいます。
2日間かける工程も、赤ワインとデミグラスの使い方も変えていません。

現在も変わらない仕込みの風景
変わったのは、名前と主役の部位だけです。

主役の部位は変わっても、考え方は同じ
どこで、何を召し上がるかは、お客様の自由です。
ただ、時間と手間をかけてきた山小屋のシチューが、
今もここで受け継がれていることだけは、
知っていただけたら嬉しく思います。
ヒュッテ入笠のシチューは、
名前ではなく、時間と手間でできています。
「牛タンシチュー」は、長年の経験と時間を大切にしながら
新しい味として育ってきた料理です。
これからもひと皿ひと皿、大切にお届けします。

